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あゆ様リクエスト
Signalより、工藤×廉で激甘な話







走って走って角を曲がって、また走って。目の前に見えてきた扉を思いきり引いて飛び込む。

勢いよく開いた扉に店内にいた人々が驚いてこちらを見たがそれら全てを無視して、俺はさらに奥の扉まで走るとその先へ足を踏み入れた。

「工藤!!」

バンッと音を立てて開いた扉と俺の発した声が静かな室内に大きく響いた。

「廉?どうした?」

ソファーに座った工藤が不思議そうな表情で俺を見る。

「…っ、工藤」

俺はいつもと変わらないその姿に安堵して、自ら工藤に抱きついた。

「どうした廉?何かあったのか?」

工藤はぎゅっと抱き締め返し、俺が落ち着くまでそうしてくれた。

「…よかった」

ポツリと溢した声は掠れてしまった。

「落ち着いたか?」

頭上から降ってきた声に俺ははっ、と自分の体勢を思い出して顔を赤く染めた。

「は、離して///」

「廉が泣きそうになってた理由を話してくれたらな」

ひょい、と軽々俺を持ち上げた工藤は自分の足の上へ、俺を横抱きにして下ろした。

右腕が腰に回され、左手が頬を撫でる。

俺は恥ずかしさのあまりジタバタと足を動かし逃げようとしたが逃げられない。

そして、ダメもとで腰に回された右腕を外そうと腕に触れた瞬間工藤の肩が僅かに跳ねた。

「―っ」

足の上に乗せれ、ちょうど同じぐらいの高さにある工藤の横顔が右腕に触れた瞬間、ほんの僅かだが歪んだ。

俺は恥ずかしかったのも抵抗することも忘れ、ぴたりと動きを止める。

「工藤…」

「なに泣きそうな声出してんだよ」

だって…、

「もしかして誰かに俺の事聞いて来たのか?」

俺はうんと頷いて俯いた。

ここに来る前にDollがどっかのチームとやりあってるって聞いた。

工藤が負けるわけないと信じてるけど、やっぱり気になってその場へ足を運んだ。

でも着いた時にはもう終わっていて、もちろんDollの圧勝だった。そこに残っていた人が工藤が怪我をしたって言ってて、…俺は気づいたら走ってここへ向かっていた。

それであれか、と部屋へ入るなり抱き着いてきた理由が分かったと工藤は納得したような表情を浮かべた。

「悪い、心配かけたみたいだな」

頬に添えられていた左手で顔を上げさせられ、その指先が俺の目元を優しくなぞるように動く。

「怪我なんかするなよ」

間近にある茶色の瞳をジッと見つめて俺は怒ったような口調で言った。

「分かった。もうしねぇ。廉が泣くからな」

茶色の瞳が優しく細められ、頬が朱に染まる。

「……ぅ///」

羞恥心が今になって襲ってきた。

工藤から視線を外して、うろうろと空中をさ迷わせながら俺は聞く。

「そ、れで怪我したって言ってたけど平気なの?」

「右腕が少し痛むぐらいで他は問題ない」

「そっか…」

本人からそう言われて俺はホッと息を吐いた。人に聞くより自分の耳で、目で、ちゃんと確認したかった。

「安心したか?」

ポンポンと腰から離れた右手が俺の背を軽く叩く。

安心した。安心したけど。

「右手使ったら駄目だよ!」

俺はくるりと上体を捻り、工藤の右手を掴まえた。

「いや普通に使う分ならへい…」

「駄目だからな!」

服の下からチラリと覗いた白い包帯に俺は眉を寄せて、工藤の言葉を遮った。

いつになく強い口調で言われて工藤は困惑した。

「廉?」

「駄目」

まだ何も言っていない、と工藤は出そうになった言葉を飲み込んだ。

その視線がジッと右腕を見ていたから。

悲しそうに眉を寄せ、まるで自分が痛いような。

あれ?と、そこで工藤はようやく気づいた。

もしかして廉は勘違いしているんじゃないかと。包帯は巻いてあるがそれは貼った湿布が剥がれ落ちないようにである。

怪我は右腕を強打して出来た打撲で、多少赤くなって腫れてはいるが別に血が流れるような大怪我ではない。

「あ〜、廉。これな…」

工藤はなんだか困ったような罰の悪そうな、なんとも言えない表情で俺が掴んでいた自身の右腕を指すと言った。

「ただの打撲で本当にたいしたことないんだ」

「え?」

包帯が巻いてあるから酷いのかと…

ソッと掴んでいた俺の手を外すと工藤は袖を捲り、包帯をハラリと解いた。

そこにはガーゼとかではなく湿布が貼ってあった。

「…うっ…ぁ、…っ///」

自分の勘違いにカッと顔に熱が集まる。

恥ずかしいっ///

その様子に工藤は困ったような顔から、口元を緩めて微笑みに変えた。

「心配してくれたんだろ?ありがとな」

「………ぅ、ん///」

そうは言っても恥ずかしい事に変わりはなくて。

俺は逃げようと工藤に気付かれないよう、ソロリと片足を床に下ろした。

そして…、

「うわわっ!?」

一気に脱出を図ろうとしたら、今度は左腕でがっちりと腰を掴まれ引き戻された。

ばふ、と工藤の元に逆戻りしてしまった。

「折角来たのにどこ行くんだ廉?」

「えっと…その、飲み物貰いにお店の方に」

「それなら待ってろ。俺が持ってくる」

ぽんぽんと頭を叩かれ、工藤は立ち上がる。

「って、待って!工藤!」

扉に手をかけた工藤を俺は慌てて止めた。

怪我の程度がどうだこうだじゃなくて、工藤が右腕を怪我してる事にかわりはないんだから!

なんとか工藤を部屋に留め、俺は飲み物を二つ貰ってから部屋へ戻った。

もう逃げるとかはどうでもよくなっていた。

カップをテーブルの上に置いて工藤の隣に座る。

そうすると工藤の手が俺の肩に回され引き寄せられた。

「………///」

俺は少しだけ肩から力を抜いて工藤に寄りかかる。肩から離れた工藤の手が俺の髪をサラサラとゆっくり上から下へすいていく。

室内の壁に設置された時計の音だけがカチカチと音を発していた。

心地良い空間。

口元が緩み、自然と顔に笑みがのぼる。

「工藤」

「ん?」

チラッと工藤を見上げて俺は心の中に浮かび上がった想いを口にした。

「工藤は俺が守るからね」

その台詞に髪をすいていた手がピタリと止まる。

「…急にどうしたんだ廉?」

「急にじゃないよ。俺だって工藤を守りたい」

俺がいたら工藤に怪我なんてさせなかった、とまでは言わないけど俺の知らない所で怪我なんてしないで欲しい。

その想いは工藤にも身に覚えがあるものでよく分かっていた。

好きな相手なら尚更。その人を傷つけるありとあらゆるものからその身も心も守りたい。

「そうか。じゃぁ、しっかり守ってくれよ。頼りにしてるぜ」

工藤はその気持ちを笑顔で受け止め、頬にキスを落とした。

ふわっ、と頬に唇が触れ離れていく。

ほんのりと頬に朱を走らせた俺は、離れていく工藤に向かってはにかみながらまかせといて、と頷き返した。

「俺を守るならずっと側にいろよ」

「うん///」

再び肩に腕を回されて、今度は抱き締められた。

向き合う格好になり、心臓がドキドキと通常より速く鼓動する。

工藤の左手が優しく俺の頬を包み、顔を上向かされる。

「廉」

「……///」

名前を呼ばれただけで体温が上昇して顔が熱くなる。

徐々に近づく顔に俺はソッと瞼を下ろした。

「…んっ///」

二三度啄むようにバードキスをされて、最後にチュッとリップ音を立てて離れていく。

「……///」

俺は真っ赤になっているだろう顔を見られたくなくてそのまま顔を工藤の胸に埋めた。

あっ、工藤の鼓動も速い///

頭上でフッと空気が震え工藤が笑ったのが分かった。

「さっきはカッコ良かったのに今は可愛いな」

「かっ、可愛いって///」

ぎゅぅっと抱き締められて顔の熱は当分引きそうにない。

「そうだろ?俺を心配して走ってここまで来てくれて俺は嬉しかったぜ」

ぽんぽんと背に回された工藤の腕が俺の背を叩く。

「…っ、うん///俺も工藤が無事で良かった」

おずおずと工藤の背に俺も腕を回してきゅっと工藤の服を掴んだ。

「!?どうしてお前はそう俺を煽るかな…」

「え?」

苦笑した工藤に俺が首を傾げると、工藤は何でもないと言って俺の髪に指を絡めた。

そうして、俺達は部屋に他の人が入って来るまで暫く抱き締め合っていた。





END.


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